通貨ペアとは、FX取引で売買される「2国の通貨の組み合わせ」のことです。
株式相場に例えると、個別銘柄にあたるのが通貨ペアです。
この記事では、通貨ペアの解説や通貨ペアの選び方、FX初心者向けの通貨ペアについて解説していきます。
- 通貨ペアとは?
- FX初心者におすすめの「通貨ペアの選び方」
- 「ドルストレート」とは?
- 「クロス円」とは?
- 「クロス通貨」とは?
- 「基軸通貨」とは?
- 「メジャー通貨」とは?
- 「マイナー通貨」とは?
- 「ローカルカレンシー」とは?
- 「エマージング通貨」とは?
- 「安全通貨」とは?
- 「避難通貨」とは?
- 「有事のドル買い」とは?
- 「ペトロカレンシー」とは?
- 「日本円」とは?
- 「米ドル」とは?
- 「ユーロ」とは?
- 「イギリスポンド」とは?
- 「スイスフラン」とは?
- 「豪ドル」とは?
- 「ニュージーランドドル(キウイ)」とは?
- 「カナダドル(ルーニー)」とは?
- 「ルーマニア・レウ」とは?
- 「南アフリカランド」とは?
- 「メキシコ・ペソ」とは?
- 「ノルウェー・クローネ」とは?
- 通貨ペア~まとめ
通貨ペアとは?
通貨ペアとは、FX取引で売買される「2国の通貨の組み合わせ」のことです。通貨ペアは、株式相場に例えると「個別銘柄」にあたります。
FX取引は、単純にいうと「外貨を両替する行為」なので、常に対象となる二つの通貨を組み合わせた形でやり取りします。
通貨ペアは、「ドル/円」「ユーロ/ドル」などと表記され、左側が取引される通貨、右側が決済(損益の算出)に用いられる通貨になっています。
通貨ペアには、外貨と円の組み合わせ(クロス円)と、外貨と外貨の組み合わせ(ドルストレート)があります。
主要な通貨ペアの特徴
ユーロ/ドル(EUR/USD)は、為替市場での取引額が世界一の通貨ペアです。
相場参加者が多いため、流動性が極めて高く、テクニカル的な再現性も高いという特徴があります。
ユーロ/ドルは、ロンドンタイム~ニューヨークタイムで活発に取引されています。
「ドル/円(USD/JPY)」は、市場取引額第2位の通貨ペアで、日本人に最もなじみがあり、損益の算出も分かりやすいため、人気があります。
東京タイムではレンジ傾向が見られるものの、指標発表をきっかけにトレンドが生まれることもあります。
「ポンド/ドル(GBP/USD)」は、市場取引額第3位の通貨ペアです。
ポンド自体が投機的な値動きをしやすい傾向があるため、いわゆるダマシの値動きが頻発している印象が強い通貨ペアです。
「ボンド/円(GBP/JPY)」も同様で、初心者には荷が重いといえるでしょう。
FX初心者におすすめの「通貨ペアの選び方」
「どの通貨ペアでトレードするか?」──これは、FX初心者がトレードを始めるときに悩むことのひとつです。
- 「どの通貨ペアが一番稼ぎやすいのだろう?」
- 「どの通貨ペアだと高い勝率になるのだろう?」
- 「トレードが上手くいきやすい “秘密の通貨ペア” があるのでは?」
これらの疑問は、FX初心者なら一度は考えたことがあることかもしれません。
しかしこのような通貨ペアは存在しませんし、安易な気持ちでFXをすることは「あっけなく資金を失うこと」にも繋がりかねません。
そこでFX初心者向けの「通貨ペアの選び方」と「おすすめの通貨ペア」についてアドバイスします。
トレード対象の通貨ペアは少数に限定しておく
FXでは、通貨ペアごとに値動きの特徴的な傾向が見られることは事実ですが、初心者のうちから個々の値動きの特徴にこだわることは成功への遠回りになってしまいます。
まず、ひとつの通貨ペアで損益をプラスにできる──これを達成することが重要です。
トレード対象の通貨ペアを増やしていくことは、それからで大丈夫です。
さらに言えば、いきなりリアルトレードを始めるのではなく、トレード練習(検証)ソフトを使って事前にしっかりと検証をおこなうことが大切です。
取引量(取引金額)が多い通貨ペアを選択する
取引量(取引金額)が大きな通貨ペアは、多くのトレーダーから注目されて取引が盛んです。
そのため極端な変則的値動きを見せることが少なく、把握しやすいチャートパターンも形成されやすいことから、トレード戦略を立てやすい傾向があります。
「取引量が多い=流動性が高い」ということなので、取引注文もスムーズで、想定外のスリッページが起きる可能性も低くなります。
取引量の少ない通貨ペアの過去チャートを見ると分かるのですが、不自然な長いヒゲのあるローソク足や極端な長大線が出現したり、分かりやすいチャートパターンがあまり見られなかったりする傾向があります。
こうした取引量の少ない通貨ペアで、無理に過去チャート検証をしたりリアルトレードをするのは避けるのがベターです。
なお、FX取引は相対取引のため、実際の外国為替市場の取引量とイコールではありませんので、取引量を知るためには金融先物取引業協会(FX会社が加盟する協会)が公表する取引金額情報を参照するのがおすすめです。
例えば、金融先物取引業協会が公開した2023年4月の取引金額ランキング(店頭FX月次速報)によると、圧倒的にドル円の取引金額が多く、次いでポンド円などのクロス円が続き、5位がユーロドルとなっています。
参考情報 金融先物取引業協会「統計資料」
適度な値動き(ボラティリティ)がある通貨ペアを選択する
ボラティリティとは、値動きの変動の大きさや激しさを表す指標・尺度のことで、レート(価格)がどれだけ激しく変動しているかを表すものです。
ボラティリティが少なく値動きがほとんど無い通貨ペアだと、そもそも為替レートの変動差から利益を得ることが困難ですので、こうした通貨ペアは避けることが望ましいです。
かといってボラティリティが大きければ良いというものではなく、先程説明した「取引量」によってはボラティリティの高さが大きなリスク要因となる場合があります。
例えば、ボラティリティが大きく取引量が少ない(流動性が低い)通貨ペアだと、突発的に値が飛んだり、スプレッドが急拡大したりして、取引注文が不安定になる可能性があります。
以上のことから、適度なボラティリティがある通貨ペアを選択することが求められます。
スプレッドの小さな(狭い)通貨ペアを選択する
FXの取引レート(為替レート)は、その時点での「売り値」と「買い値」が提示されていますが、この「売値と買値の差」のことを “スプレッド” と呼びます。
スプレッドは簡単に言えば、我々FXトレーダーが取引のたびに支払う「取引手数料」です。
ですので特にFX初心者は、できるだけ狭いスプレッドの通貨ペアを選んでおくのがおすすめです。
初心者のうちは負けトレードだけではなく、取引注文のミスやポジポジ病など、あらゆる失敗を経験するものです。
ただでさえ生じる損失を少しでも減らせるように、スプレッドで無用なハンディキャップを背負わないようにしておきましょう。
FX初心者におすすめの通貨ペア①「ドル/円」
FXトレーダーなら誰もが知っている「ドル/円」が、FX初心者に第一におすすめできる通貨ペアです。
多くの時間帯でデイトレードやスキャルピングが可能なボラティリティが発生しているため、取引時間の自由度が高いのが魅力です。
日本の株式市場に合わせた日中のトレードや、夕方からの欧州時間トレード、さらには夜間の米国時間トレードなど、どれでも選択可能です。
ドル/円は取引量が多く、日中から深夜にかけて狭く安定したスプレッドが提示されているため、突発的な値動きによるスリッページのリスクも低く抑えられます。
pips(ピップス)あたりの変動金額も日本円が基準になっているため、取引ロット数と損益の関係が直感的に把握しやすくなっています。
おすすめ通貨ペア②「ユーロ/ドル」
ユーロ/ドルは、外国為替市場で最大の取引量を誇る通貨ペアです。
ここでは詳しい説明は省きますが、相対取引であるFX取引では実際の取引量は一段少なくなっています。
とはいえ、大きな取引量であることは事実なので、ユーロ/ドルも多くの時間帯で狭くて安定したスプレッドが提示される傾向にあります。
日本時間の昼間はボラティリティが低くなりレンジ相場になりやすい傾向がありますが、夕方から深夜にかけては活発な取引が行われ、経済指標や金融政策の発表を機会にトレンドが発生することもしばしばです。
なお、ユーロ/ドルを始めとするドルストレートはポジションの損益状態がドルで計算され、それを日本円に換算する形になります。
そのため、取引ロット数と損益の関係が分かりにくい点に注意が必要です。
おすすめ通貨ペア③「ユーロ/円」
ドル円以外に日本円を介した通貨ペアをトレードしたいなら、ユーロ/円がおすすめです。
上述したように、大きな取引規模を誇る通貨ペア「ユーロ/ドル」と関係するクロス通貨ですので、ユーロ/ドルと同様のメリットがあります。
pips(ピップス)あたりの変動金額も日本円が基準となるため、取引ロット数と損益の関係が直感的に把握しやすくなっています。
ちなみにドル/円以外のクロス通貨は、一般的にスプレッドが若干広めに設定されていますので、お使いのFX口座で実際のスプレッドをしっかりと確認しておきましょう。
「ドルストレート」とは?
ドルストレートとは、為替取引の通貨ペアの一方が米ドルになっている通貨ペアのことです。
ドル/円、ユーロ/ドル、ポンド/ドル、スイス/ドル、豪ドル/ドル、ドル/加ドルなどがあります。
現在、基軸通貨は米ドルであるため、米ドルとのペアは「直接ドルと取引される」という意味で「ストレート」と呼ばれます。
「クロス円」とは?
クロス円とは、FXで取引される通貨ペアのうち、ユーロや豪ドルやスイスフランなど、米ドル以外の通貨と日本円とのペアのことです。
具体的には、ユーロ/円、ポンド/円、豪ドル/円、NZドル/円、スイスフラン/円、カナダドル/円などがあります。
現在、世界で中心的に使われている通貨──すなわち基軸通貨は米ドルです。
そのため、クロス円の実際のレートを算出するには、「ドル/円」と「相手通貨/ドル」の二つの通貨ペアのレートを合成する形で用いられます。
クロス円の通貨ペアをトレードする場合は、その通貨ペアの値動きだけではなく、ドル/円の値動きにも注意しておくことが大切です。
損益の算出が日本円だと、直感的に損益が把握しやすく、またFX初心者がトレードするには心理的な負担が少なくなるため、初期段階のトレード対象としてクロス円は好ましい取引通貨ペアといえるでしょう。
「クロス通貨」とは?
ドルストレートとは反対に、米ドルを介さない通貨ペアのことをクロス通貨といい、ユーロ/円、ポンド/円などの通貨ペアをクロス円といいます。
クロス通貨は、元となるドルストレートの通貨ペアを合成(クロス)して取引レートが算出されます。
例えばユーロ円の場合、ドルストレートであるユーロ/ドルとドル/円を合成したレートが、ユーロ/円の取引為替レートとして扱われます。
そしてユーロ円を買う場合は、始めに円を売ってドルを買い、そのドルでユーロを買うかたちで行われます。
「基軸通貨」とは?
基軸通貨とは、国同士の間で、決済や金融取引のために最もよく使われる通貨のことです。
どの通貨が基軸通貨として使われるかは、その時代で、経済力・政治力・軍事力の最も優れた国がどこかによって決まると考えられます。
その国の通貨の流通量の多さ、経済活動の規模、軍事力を背景とした政治的安定性、これらの総合力によってその時代の基軸通貨は定まっていきます。
言い換えると、どの国の通貨が最も信頼できるか──ある日突然通貨の価値が無くなったり、権力者の都合によって通貨の価値が操作・棄損されるような心配(政情不安)がないか、という視点があるということです。
過去には、19世紀ごろをピークにイギリス・ポンドが基軸通貨としての確固とした地位をもっていました。
しかしその後、二度の世界大戦を経て国力が弱まっていき、戦後はアメリカの台頭によって基軸通貨はドルへと移行して現在に至っています。
「メジャー通貨」とは?
メジャー通貨とは、外国為替市場で頻繁かつ大量に取引されている通貨のことで、一般的には米ドルやユーロ、日本円、英ポンド、スイスフランのことを指し、「主要通貨」とも呼ばれます。
また、資源国通貨である豪ドルとカナダドルもメジャー通貨として扱う場合があります。
メジャー通貨の特徴は「流動性が高いこと」です。
常に多くの相場参加者によって為替市場で大量の売買がなされていて、それら資金の動きが流動性をもたらし、実需筋や投機筋の大きな売買注文は滞りなく執行されていきます。
そのためマーケット・インパクトも生じ難くなっています。
メジャー通貨以外の通貨のことはマイナー通貨といい、基本的に流動性が不十分なため、エントリーや決済がままならなかったり、マーケット・インパクトが生じやすくなる傾向があります。
また、マイナー通貨にはカントリーリスク(地政学的リスク)もある点に注意が必要です。
メジャー通貨はその国の経済力への信用や政情には基本的に不安はありませんが、マイナー通貨の各国ではそういった信用リスクや政情不安が比較的多く見られます。
「マイナー通貨」とは?
マイナー通貨とは、メジャー通貨(主要通貨)以外の、限れらた地域(ローカル市場)で取引されている、取引量や流動性が少ない通貨のことです。
具体的には、米ドルやユーロ、日本円、英ポンド、スイスフランといったメジャー通貨以外は、基本的にどれもマイナー通貨と呼ばれます。
ブラジルレアルやシンガポールドル、トルコリラ、南アフリカランドなど、世界各地にはそれぞれの地域に根差したローカルな通貨が存在します。
カナダドルや豪(オーストラリア)ドルといった比較的流動性の高い資源国通貨も、一般的にはマイナー通貨と呼ばれるケースが多いです。
実際、FX取引ではこれらに絡む通貨ペアの取引量はとても少ないとされています。
「ローカルカレンシー」とは?
ローカルカレンシーとは、外国為替市場(FX取引)において、流動性が乏しいため通貨取引が自由にできない通貨のことです。
世界的には多くの通貨がローカルカレンシーに該当し、米ドル、ユーロ、日本円、ポンド、スイスフラン、カナダドル、ニュージーランドドルなどの主要通貨と呼ばれる通貨以外はみなローカルカレンシーといっても良いほどです。
実際にFX取引ツールのチャートで主要通貨以外のマイナーな通貨ペア(トルコ・リラや香港ドルなどが絡む通貨ペア)のレート配信状況を観察してみると、スプレッドが非常に広かったり、レート配信の頻度が低くて値が飛ぶ様子が見て取れます。
言い方を変えると、基本的に通貨というものは交換(外国為替取引)が難しいものであり、基軸通貨を中心に、世界で信用度の高い限られた通貨がマーケットで取引されることによって流動性が生まれている、ということになります。
「エマージング通貨」とは?
エマージング通貨とは、経済が発展途上の「新興国」と呼ばれる国で流通している通貨のことです。
中南米、東南アジア、中東、東欧の国々を指すのが一般的で、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、VISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコ、アルゼンチン)の各国通貨が、エマージング通貨としてポピュラーです。
エマージング通貨でのFX取引について
FX会社によっては、こうしたエマージング通貨と米ドルとの通貨ペアを多数取り扱っているところもありますが、一般的にはスプレッドが大きめ(広い)であることと、流動性が低いため、FX取引をする際には注意が必要です。
通貨ペアのスプレッドが広いということは、エントリーのたびに割高な手数料を支払うようなものですので、トレード回数が増えがちなデイトレードやスキャルピングには不向きな通貨ペアといえます。
また、通貨ペアの流動性が低いということは、為替レート配信も間欠的になる(新しいレートが配信されるまで間が開く)可能性があります。
レート配信が間欠的だと、通貨ペアによっては数分以上新しいレートが配信されない状況が続いたかと思えば、突然大きく値が飛ぶ──といった事態に遭遇するリスクがあります。
それは、想定していた損切りラインを大きく超えたレートで決済されるかもしれないということです。
また、維持証拠金の金額が大きめに設定されているケースもあるため、思ったようなポジションサイズでのFXトレードが難しい可能性もあります(実質的なレバレッジの制限が行われています)。
このような点から、エマージング通貨で短期トレードすることはおすすめ出来ません。
「安全通貨」とは?
経済危機や通貨危機、戦争などの危機が起こった際に買われやすい通貨のことです。
主にその危機とは関係のない国の通貨が選ばれやすく、避難通貨とも呼ばれます。
日本円は、その代表的な通貨のひとつで、「有事の金」と並んで「有事の円」として買われるケースが目立ちます。
2017年の北朝鮮ミサイル問題では、日本に地政学的リスクがあったにもかかわらず、円買いの動きが見られました。
これは、日本は純対外資産(世界中にある日本人の純資産)が世界一多い国であるということから、これが円への信用につながって、円が安全通貨とみなされているからだと考えられています。
その後、長期に渡る経済的停滞、実質的なアベノミクスの失敗など、日本円に対する国際的信用に陰りが出てきているということなのか、有事の際に日本円が買われることが目立たなくなって来ているようです。
安全通貨としての日本円の価値が今後どのようになっていくのか、為替取引を日々おこなうFXトレーダーとしては、レート変動の推移を予測していく上で大いに注目していく必要があるでしょう。
「避難通貨」とは?
避難通貨とは、政情不安や地政学的リスク、国際的経済危機など、世界で何らかの危機が起こった時に、資産防衛のために為替市場で買われる通貨のことです。
具体的には、地政学的に距離が遠く関連性のない国の通貨や、経済的なつながりの少ない国の通貨、スイスといった永世中立国の通貨、信頼性の高い経済強国や軍事大国の通貨などが避難通貨として対象になります。
世界のどこかで戦争や地域紛争、金融危機、テロなどが起こると、世界情勢はそれに敏感に反応して金融市場は動揺して不安定になります。
そうなると、世界中の投資資金は安全性を求めて為替市場を移動するわけですが、このとき買われるものの一つが避難通貨です。
「有事のドル買い」とは?
有事のドル買いとは、戦争や紛争、政変、大規模なテロといった有事の際に、資産を安全な米ドルに換えようとする動きのことです。
国際情勢が不安定になった時には、外国為替市場で「流動性が高い(流通量の多く取引が活発な)通貨へと資産を換えておこう」という動きが見られます。
ドルは安全通貨と呼ばれ、その背景には強い国力(経済力や政治的安定性)の存在があります。
ですから、日本円も有事の際に買われやすい傾向がありますし、同様の理由から永世中立国であるスイスの通貨スイスフランも買われやすくなっています。
特に湾岸戦争を経て911テロ以降は、アメリカの強さにも疑問が持たれるようになったこともあり、有事の際に買われる通貨が何になるのかは不透明になってきているといえます。
現在では、有事が起こった際には必ずしもドル買いとはならず、それがアメリカにどの程度影響を及ぼすかによって「ドル買い」になるか、または反対に「ドル売り」になるのかが分かれてきています。
ですから、有事の際に安易に米ドルが強くなるとは思わないこと(闇雲に買わないこと)が賢明ですし、あくまでも相場の変化に合わせて対応していくことが大切です。
「ペトロカレンシー」とは?
ペトロカレンシーとは、中東や中南米、カナダ、ノルウェーなどの産油国の通貨のことです。
ペトロカレンシーは「産油国通貨」とも呼ばれます。
ちなみに1980年代のイギリスでは、北海油田の開発によって対外利益が増大した(GDPの10%にまで至った)結果、イギリスポンドが「ペトロポンド」と呼ばれていた時期があります。
産油国は外貨獲得の手段として、原油という単一品目の対外輸出に頼る傾向が強いため、産油国の通貨は商品相場(コモディティ市場)の値動きや、資源(原油)輸入国の景気の影響を大きく受ける特徴があります。
「日本円」とは?
日本円とは、日本銀行が発行して日本国で流通している通貨のことです。1871年に明治政府が日本の通貨単位として決定しました。
明治政府は、それまで各藩や商人たちによっても発行されていた通貨(藩札など)を始めとした様々な通貨の統一を目指して、明治4年(1871年)に「新貨条例」を制定しました。
これは、金貨を貨幣の基本とし、単位も「両」から「円」に改められ、10進法を採用するというものでした。
その後、兌換紙幣が発行され、さらに不換紙幣への移行を経ながら、日本では「円」のみが通貨として流通しています。
FXでの通貨表記は「JPY」です。日本はアメリカと中国に次ぐ「世界第3位の経済大国」であり、流通量も3番目ということもあって、FX市場では日々活発に取引されています。
通貨ペアの例としては、ドル/円(USD/JPY)、ユーロ/円(EUR/JPY)、豪ドル/円(AUD/JPY)、ポンド/円(GBP/JPY)、トルコリラ/円(TRY/JPY)などがあります。
「米ドル」とは?
米ドルとは、世界最大の経済大国であるアメリカ合衆国の通貨単位のことです。
USドルとも呼ばれます。
米ドルの特徴は、圧倒的な経済力と資源国としての国力の高さ、そして世界の警察としての強力な軍事力、これらを背景にした信用力の高さと発行量の大きさにあります。
こうした特徴と、世界で最も流動性が高い通貨であることから、世界の為替取引の約90%に関係しています(基軸通貨として用いられている)。
指摘したように、米ドルの信用はアメリカの強大な経済力や軍事力(政治力)が背景になっています。
そのため、世界のほとんどの国の経済に影響を与えており、米ドルが強すぎても弱すぎても世界経済に影響を及ぼすことになります。
ドル紙幣の発行は、FRB(連邦準備制度)が集中的に行っています。
通貨ペアの例としては、ユーロ/ドル(EUR/USD)、ポンド/ドル(GBP/USD)、ドル/スイスフラン(USD/CHF)、豪ドル/ドル(AUD/USD)などがあります。
「ユーロ」とは?
ユーロとは、ヨーロッパの多くの国で使われている通貨のことです。
欧州連合(EU)の単一通貨として1999年に新しく設けられ、当初は銀行間取引での利用からスタートし、2002年からは一般でもユーロ通貨の使用・流通が始まりました。
それまで欧州各国で流通していたマルクやフラン、リラ、ペセタといった通貨は、欧州連合への加盟とユーロ通貨の採用によって利用が永久に放棄されました。
ちなみに、イギリスやスウェーデン、ノルウェーといった国はユーロ通貨を採用しておらず、独自通貨の流通が続いています。
ユーロ通貨の取引量は、米ドルに次ぐ世界第2位で、流動性の高いメジャー通貨として幅広く取引されています。
そのためユーロ通貨は、第2の基軸通貨としての評価を確立しつつあるといっても過言ではありません。
特に911テロ以降のアメリカの国際的状況から、「外貨準備の米ドルへの一極集中」という現状への不安が顕在化した結果、ユーロ通貨の価値が評価されていったという経緯があります。
しかしそういったユーロ通貨への評価が生まれたものの、ギリシャやイタリア、ポルトガルなどの経済危機によって、EU各国のソブリンリスク(国家への信用不安)が顕在化しました。
ユーロ通貨そのものの存続が危ぶまれる声すら出始めており、今後も安定した経済成長が見込めるかは不透明とも言われています。
通貨ペアの例としては、ユーロ/ドル(EUR/USD)、ユーロ/ポンド(EUR/GBP)、ユーロ/円(EUR/JPY)などがあります。
「イギリスポンド」とは?
イギリスポンドとは、イギリスの流通通貨で、別名「ケーブル」や「スターリング」とも呼ばれています。
19世紀半ば、ポンドが世界の基軸通貨としての地位を確立していた時代がありましたが、イギリスの産業構造の変化や、ドイツ、アメリカといった産業国の隆盛によって、ポンドの地位が脅かされていきました。
そして20世気に入り、戦争経済のなかでイギリスは、金本位制の放棄~再導入といった混乱を経て、ポンドの基軸通貨としての信用は下落し、ドルにその地位を譲ることになりました。
こうした、ポンドからドルへの覇権の移行は、イギリスポンドの衰退を見てとった金融家たちの意思で加速された可能性が高いとも言われています。
現代のFXでは、米ドルやユーロと比べて、主要通貨の中では短期間で大きな値動きを見せるため、短期売買(デイトレード、スキャルピング)のトレーダーたちに人気があります。
通貨ペアの例としては、ポンド/ドル(GBP/USD)、ポンド/円(GBP/JPY)、ユーロ/ポンド(EUR/GBP)などがあります。
イギリスポンドは過去に一人の人物と戦ったことがある
その人物とは、伝説の大物トレーダー「ジョージ・ソロス」です。
当時のポンドの実際の価値と為替レートとの乖離に着目したソロスは、大胆かつ徹底的な空売りトレードを仕掛けます。
そのとき実質的な為替介入を続けていたイングランド中央銀行は、ポンドの価値を守るために徹底抗戦を行いました。
この熱いトレードバトルの顛末は、下記の記事をご覧ください。
解説記事 『ジョージ・ソロス』とは?ヘッジファンドの帝王のエピソードの数々
「スイスフラン」とは?
スイスフランとは、スイスの通貨単位のことです。
世界的にも珍しい永世中立国であるスイスの通貨ということで、地政学的リスク(領土問題や軍事侵攻、資源問題など)や金融危機(バブル崩壊や信用不安)などが起こったときには、避難先通貨(安全通貨)として買われる通貨のひとつです。
スイスフランの外国為替市場における取引シェアは、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドに次ぐ規模になっています。
通貨ペアの例としては、ドル/スイスフラン(USD/CHF)、スイスフラン/円(CHF/JPY)、ポンド/スイスフラン(GBP/CHF)などがあります。
金融世界を揺るがした大事件「スイスフランショック」
スイスフランショックとは、2015年1月15日、スイス国立銀行(中央銀行)の政策変更により突然引き起こされた、外国為替市場の大混乱のことです。
それまでスイス中央銀行は、2011年9月から、1スイスフランが1.2000ユーロよりも高くならないよう、無制限の為替介入によってレート操作をおこなっていました。
これを突然撤廃すると発表したため、極めて短時間のうちに約40%もレートが変動する結果となり、金融企業をはじめ、社会的に大きな影響をもたらしました。
詳しくは、下の記事で解説しています。
解説記事 『スイスフランショック』とは?偽りの聖杯手法に溺れたトレーダーたち
「豪ドル」とは?
豪ドルとは、オーストラリアの通貨単位のことで、オージードルとも呼ばれます。
豪ドルは、オーストラリアが資源国ということもあり、資金流入を目的に高金利な通貨になっています。
国の経済規模が小さいため、経済指標結果や政変などの材料があると、為替レートが一方向に動きやすい(トレンドになりやすい)という傾向があります。
長期FXトレーダーには影響はありませんが、豪ドル関連の通貨ペアはスプレッドが大きい(広い)傾向があるため、短時間でエントリーと決済を繰り返すデイトレードやスキャルピングには、やや不向きな通貨といえます。
ちなみにオーストラリアは、1966年まで長らくイギリスポンドを中心とした「ポンド通貨圏」に属していましたので、その間は「豪ポンド」が通貨として流通していました。
通貨ペアの例としては、豪ドル/ドル(AUD/USD)、豪ドル/円(AUD/JPY)、ポンド/豪ドル(GBP/AUD)、ユーロ/豪ドル(EUR/AUD)などがあります。
「ニュージーランドドル(キウイ)」とは?
為替取引(FX)におけるキウィとは、ニュージーランドの通貨単位「ニュージーランドドル」の愛称のことを指します。
ニュージーランドには、「キウィ(Kiwi)」という名の鳥の固有種が生息していて、この鳥の名前がニュージーランドドル通貨の愛称になっています。
ニュージーランドは、先進国の中でも金利の高い通貨のひとつで、これは海外からの資金流入を促す目的から高金利に設定されているものです。
ニュージーランドドルは通貨流通量が少ないため、何か為替変動の材料(重要指標の発表や事件、自然災害、政変など)があると為替レートが大きく変動する傾向があります。
FX会社でニュージーランドドルの通貨ペアの取り扱いがあったとしても、為替レートの配信タイミングが少なかったりスプレッドが広かったりする傾向があるので、短期トレードには不向きな通貨といえます。
通貨ペアの例としては、ニュージーランドドル/ドル(NZD/USD)、ニュージーランドドル/円(NZD/JPY)などがあります。
「カナダドル(ルーニー)」とは?
カナダドルとは、カナダが発行する通貨単位のことで、別名「ルーニー」の愛称・ニックネームで呼ばれています。
ルーニーの愛称は、カナダドル硬貨にデザインされている水鳥の「アビ(Loon)」に由来しています。
カナダドルは資源国通貨として知られており、またカナダは先進7か国(G7)の一員でもあるため、オージー(豪ドル)やキウィ(ニュージーランドドル)、ノルウェー・クローネ、南アフリカ・ランドなどの資源国通貨の中でも代表格の通貨となっています。
カナダは多種多様な産業によって経済が構成されているため、他の資源国通貨と比べて、為替レートの変動が比較的安定しているのが特徴です。
また、カナダはアメリカとの経済的な結びつきが強いこともあり、米国の政治・経済的な動向に影響を受ける傾向があります。
通貨ペアの例としては、ドル/カナダドル(USD/CAD)、カナダドル/円(CAD/JPY)、ユーロ/カナダドル(EUR/CAD)などがあります。
「ルーマニア・レウ」とは?
ルーマニア・レウとは、ルーマニアで使用されている通貨単位のことです。
ルーマニア国立銀行が発行・管理しており、1992年からは変動為替相場制を採用しています。
為替取引におけるルーマニア・レウの通貨コードは「RON」となっています。
FX取引でのルーマニア・レウの特徴について
ルーマニア・レウは取引量の少ないマイナー通貨であり、流動性も低いため、取り扱っているFX会社は限られています。
ルーマニア・レウのFX取引をしたい場合は、「米ドル/レウ(USD/RON)という通貨ペアを扱っているFX会社を利用する必要があります。
その一つは「FOREX.com」です(運営会社であるStoneX証券株式会社は、国内の第一種金融商品取引業者として登録されています)。
米ドル/レウは取引量が少ないため、スプレッドが広く設定されており、さらには必要証拠金も他の通貨ペアと比べて多く必要とされています。
ドル円やユーロ円などの通貨ペアの極めて狭いスプレッドに慣れていると、米ドル/レウのスプレッドは非現実的にすら感じるかもしれません。
米ドルに対するボラティリティ(為替レートの変動幅)は大きいため、少ない流通量と広いスプレッドという条件と合わせ、米ドル/レウのトレードは困難なものといえます。
「為替チャートの値が飛ぶ」「約定レートが滑る」といったチャート分析の困難さと注文執行のトラブルが生じやすい傾向があります。
米ドル/レウのデイトレードやスキャルピングは現実的とはいえず、不要な証拠金リスクを抱え込む結果に陥る可能性が高いでしょう。
ルーマニア・レウ通貨の解説
ルーマニア・レウは東欧通貨の一つであり、他にはポーランド・ズロチ(PLN)、チェコ・コルナ(CZK)などがあります。
地理的にユーロ圏に近接しているため、ユーロ諸国の経済・政治状況に影響を受けやすい傾向が強く見られるのが特徴であり、また流動性が低いためFX取引に際しては注意が必要です。
ルーマニアは欧州連合(EU)の一員であり、本来であれば通貨ユーロの導入義務(2014年に導入予定だった)が課せられているのですが、2023年現在も独自のルーマニア・レウを使用し続けており、ユーロ通貨の導入は未定のままです。
かつては共産主義国家としてワルシャワ条約機構に加盟していましたが、1989年のルーマニア革命によって民主化された経緯があります。
その後2004年の北大西洋条約機構 (NATO)への参加を経て、2007年には欧州連合(EU)へ加盟しました。
経済面では発展途上にある状況ですが、社会主義国時代の工業開発によって比較的小規模ながらもアルミ・鉄鋼業が存在しています。
また、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料や天然資源も産出されています。
しかし基本的には農業国であり、第一次産業人口が人口の4割強を占めています(2001年統計)。
「南アフリカランド」とは?
南アフリカランドとは、南アフリカの通貨単位のことで、FX取引での表記は「ZAR」です。
南アフリカは1994年にアパルトヘイト政策を完全撤廃し、その後も順調に経済を発展させてきました。
鉱物資源に恵まれた資源大国であり、特に金の産出量は世界1位です。
このように南アフリカランド通貨は、豪ドルやノルウェー・クローネなどと同じ資源国通貨であり、金利が高いため、FX取引においてもスワップポイント(通貨間の金利差による利益)を目当てにしたトレードにおいて人気があります。
しかし南アフリカランド通貨はそもそもマイナー通貨であり、取引量が少なく流動性も低いです。
そのため、突発的な為替レートの変動が発生するような事態に陥った場合は、ポジションの決済もままならなくなる可能性が少なからず存在しますので、南アフリカランド通貨をトレードする際にはこうした点に注意が必要です。
通貨ペアの例としては、ランド/ドル(ZAR/USD)、ランド/円(ZAR/JPY)などがあります。
「メキシコ・ペソ」とは?
メキシコ・ペソとは、メキシコ合衆国の通貨単位のことで、FX取引での表記は「MXN」です。
ブラジルの通貨「レアル」と並んで中南米での主要通貨の一つであり、また、メキシコが産油国ということもあって、メキシコ・ペソ通貨はペトロ・カレンシーとして認識されています。
現在はアメリカとの経済協定を結んでいる関係から、アメリカの経済状況や景気動向に左右されやすい傾向があります。
当然アメリカとの政治的関係からも強い影響を受けます。
アメリカの移民政策やメキシコに対する経済制裁(とその危惧)、アメリカからメキシコに対する政治的要求など、様々な要素がメキシコ・ペソ通貨に影響を及ぼします。
スワップポイント(通貨ごとの金利差による利益)を目当てに取引をする個人トレーダーも見られますが、メキシコ・ペソ通貨はマイナー通貨であるため流動性が低く、大きな相場変動時にはポジションの決済もままならなくなる可能性があるため、取引には注意が必要です。
通貨ペアの例としては、ドル/ペソ(USD/MXN)、ペソ/円(MXN/JPY)などがあります。
参考情報 メキシコペソの特徴や変動の傾向
「ノルウェー・クローネ」とは?
ノルウェー・クローネは、北欧のノルウェー王国が発行する通貨のことで、FX取引での表記は「NOK」です。
ノルウェーは北欧に位置する国で、国土面積は日本とほぼ同じくらいですが、人口は約500万人(日本の約1/24)という小さな国家です。
またノルウェーは、北海油田を所有する原油産出国ということもあり、ノルウェー・クローネは資源国通貨または産油国通貨(ペトロカレンシー)としての側面をもちます。
そのため2008年のリーマンショックが発生するまでは、豪ドルのような高金利通貨として知られていました。
経常収支が安定して黒字を続けていることから、ノルウェー自身で経済を維持することが可能なため、ユーロには加盟していません。
主な貿易相手国がユーロ圏の国々であるため、ノルウェー・クローネはユーロとの連動性が強いとされています。
通貨ペア~まとめ
通貨ペアとは、FX取引で売買される「2国の通貨の組み合わせ」のことです。株式相場に例えると、個別銘柄にあたるのが通貨ペアです。
FXでトレードする通貨ペアを選ぶ際には、流通量やボラティリティ、スプレッドに注目することが大切です。
そしてトレードの監視対象とする通貨ペアは少なく絞って限定しておくことがおすすめです。
特にFX初心者は、多くの通貨ペアのチャートを同時にテクニカル分析することは荷が重いので、ごく少数の通貨ペアでトレードしましょう。
以上、『通貨ペア』とは?FX初心者におすすめの通貨と選び方&用語解説──についてお伝えしました。