両建てとは、ひとつの通貨ペアで「買い」と「売り」両方のポジションを同時に持つことです。
この記事では、FXでの両建ての意味や注意点、デメリット、そしてトレードでの具体的な使用例(手法)について、詳しく解説していきます。
「両建て」の意味
両建てとは、ひとつの通貨ペアで「買い」と「売り」両方のポジションを同時に持つことです。
例えばドル円で両建てをした場合、ドル円を100円で買ってレートが90円になったら「10円分の損失」になりますが、100円で同じロット数を売っているため同時に「10円分の利益」が得られ、これらの利益と損失が相殺されて差し引きゼロになります。
つまり実質的にはこの間、ドル円のポジションをもっていなかったのと同じことになります。
言い換えると、同じロット数だけ反対側のポジションをもつことで、その通貨ペアのポジションの損益を固定することが出来るわけです。
FXで両建てをする目的(メリット)
両建てをすると、含み益と含み損が常に相殺されて損益が固定化されるため、ポジションを持っているのに「持っていないのと同じ」になります。
では、なぜ「一見すると意味がないように見える行為」である “両建て” をおこなうのでしょうか?
FXで両建てをするメリットとは何でしょうか?
以下、一般に「両建ての目的・メリット」とされている内容について解説していきます。
メリット1「為替変動に対するリスクヘッジ」
雇用統計や政策金利発表などの重要経済指標の発表をひかえた状況で、ポジションを決済せずに様子見をしたい場合、ポジションを両建てにして「損益を固定しておくこと」によってリスクヘッジをすることが可能です。
その後、指標発表による市場の乱高下が収まってきたら両建てを外すことになりますが、ここでのトレード判断はとても難しく、利益を上乗せするチャンスであると同時に、余計なリスク要因を抱え込む可能性があるので注意が必要です。
なお、もっともシンプルで簡単な両建ての外し方は「いつでも任意のタイミングで両建てを外すこと」です。
この場合、両建てを外した時点で上下どちらへレートが動いていたとしても「両建てを始めたときと同じ損益状態」になります。
例えば、±0pipsの買いポジションを両建てにして指標発表を迎え、その後50pipsレートが上昇した時点で「両建て用の売りポジション」を決済した(両建てを外した)とします。
この時点でのポジション状況は次の通りです。
- 元々の買いポジションは、上昇によって「+50pips」になった。
- 両建て用の売りポジションは、上昇によって「-50pips」の損失として決済された。
- この時点でのトータル損益は「含み益+50pips」と「損失-50pips」の合わせて「±0pips」となる。
──実はこれは、指標発表前に一旦ポジションを決済し、指標発表後に改めてポジションを持ち直すのと同じことです。
このシンプルな外し方をする場合の両建ては、極端にいえば「意味がない行為」だといえるでしょう。
この後に説明しますが、両建てはエントリーと決済時にスプレッドやスリッページの分だけ余計なコストを支払うため、単なる損益の固定化のために両建てをおこなうのはコスト面で不利になります。
メリット2「“つなぎ売り” 戦略による利益機会の増加」
「つなぎ売り」は、本来は株式相場で用いられているトレード戦略ですが、本質的にFXでも同様のトレード戦略をおこなうことが可能です。
「つなぎ売り」とは、大きなトレンドの見立てとして “上昇していく” と予測しているとき、一時的な下落(調整の押し)に備えて売りのポジションを持って「両建て」にするトレード手法のことです。
その後、実際に調整の下落の値動きが発生したら、本来の上昇トレンドへ回帰するであろうポイントで売りポジションを利益確定して両建てを外します。
この場合、予測通りに上昇トレンドが再開したなら、調整の下落で利益を得られた上に、その後の上昇トレンドでも利益が期待できる状態になります。
もし予測とは異なり、最初からスムーズに上昇トレンドが継続したなら、両建て用の売りポジションは損切りすることになります。
そのため、普通のトレードよりも余計な損失を出すリスクがあることに注意が必要ですし、その対策として事前にしっかりと両建てルールを検証しておくべきです。
なお、株の場合は長期保有できるのは現物の買いポジションだけですが、FXの場合は売りポジションも長期保有できますので「つなぎ買い」も同様に可能です。
※参考~メリット3「節税・税金対策」
FXの税金は、その年の間に利益確定した金額に対して課税されます。
例えば、大きな含み益になっている中長期ポジションをもっていて、相場状況的には年内に決済したいと考えていたとします。
しかし、節税のために当年度の利益を圧縮したいなどの理由でポジションを決済したくない場合、同じロット数の反対ポジションをもって両建てにすることで、決済せずに実質的な利益確定をすることが可能です。
こうすることで利益確定のチャンスを逃すことなく、実際の決済は先送りすることが出来るわけです。
しかし多くの場合は、FXに関する納税は雑所得(申告分離課税)として申告することになりますので、当年度に申告しようが来年度に申告しようが、納税額は変わりません。
ですから、これは一般的なFXトレーダーには無関係なメリットといえるでしょう。
※参考~メリット4「スワップポイント(金利差)の獲得」
売り買い同数のポジションで両建てをすることで、実質的に損益を固定することが出来るわけですが、この性質を利用したトレード戦略が過去ひそかに流行した時期がありました。
ただし、これは多くのFX会社の規約で禁止されている行為であり、現在では実質的には実行不可能なトレード方法ですし、さらには利益に見合わない大きなリスクを抱える可能性が高いため、おすすめ出来ません。
このトレード戦略を簡単に説明すると、買いポジションと売りポジションをそれぞれ異なるFX会社で持ち、スワップポイントがトータルプラスになるようにポジションを構成する──というものです。
つまり、為替差益・差損が発生しない状況を両建てで確保した上で、スワップポイントの差額を得ようという戦略です。
とはいえ、用いる必要証拠金に比べて得られるスワップポイントが小さいため、資金効率はとても悪いです。
ちなみに、複数の海外業者を使って「両建てによるスワップポイントの獲得」をしようとしても、FX会社間で情報交換をおこなっているため規約違反で対応されると言われています。
さらに以下のデメリットがあるため、スワップポイント獲得を目的とした両建て戦略は現実的ではありません。
- 得られるスワップポイントに対して必要証拠金の総額がとても大きいので、資金効率が悪い。
- トレンド発生によって為替レートが大きく変動すると、マイナス側のポジションへの追加証拠金が膨らみ続ける(含み益で相殺できない場合)。
FXで両建てをするデメリットや注意点
両建てのメリットの解説のなかで、既にいくつかのデメリットや注意点について触れていますが、改めてFXで両建てをするデメリットについて説明していきます。
両建て用の売買注文によるスプレッドやスリッページのコストが増える
両建ては本来のポジションに加え、最大で同サイズの両建て用ポジションを持つ必要があります。
つまり、普段の倍のスプレッドやスリッページが発生するということであり、余計なコスト負担を受け入れなければなりません。
現在のように「低スプレッドなFX口座」がポピュラーになった取引環境では、倍のコストといっても微々たるものかもしれません。
しかし、ポジションの損益を固定化するためにコストを支払っているという事実を、明確に意識しておくことが大切です。
ロスカット(損切り)のリスクが大きくなる
「つなぎ売り」の解説で見たように、両建て戦略が上手くハマれば上昇と下落の両方で利益を得られます。
しかし裏を返せば、両建てが裏目に出てしまう可能性もあるということです。
両建て用のポジションを損切りした上に、その直後にレートが反転して本来のポジションも損切りに追いやられる──そんな踏んだり蹴ったりなトレード結果になることもあり得ます。
また、損益を固定化する普通の両建ての場合でも、ひとたび両建てにしたポジションを元に戻す(両建てを外す)ことは、想像以上に難しい作業だといえます。
事前にしっかりと過去チャート検証をおこなって、戦略的に両建てを用いる手法を確立しているならともかく、目先の含み損からの逃避として両建てをしてしまうと、テクニカル的にもメンタル的にも両建てを外すことは困難を極めます。
ノーポジションであればフラットな目線で見ることが出来るチャートも、両建てという状態だと「期待と不安の心理的バイアス」が掛かってしまい、冷静な判断が出来なくなるのです。
特に、含み損が増え続ける状態を回避するためにおこなう両建ては、最も好ましからざる両建てと言えるでしょう。
この場合の最適解は「両建て用のポジション共に全て決済してしまうこと」だと思われますが、普通のFXトレーダーには至難の業かもしれません。
このように、両建てによって新たな損失リスクを抱えることになるのです。
FX取引ルールによっては多くの必要証拠金が必要になるため、資金効率が悪くなる
現在では、両建てをする場合に、売り買いどちらか大きな方の証拠金だけで可能なFX会社も増えてきました。
そのため、両建てによって通常よりも多くの証拠金が必要になるケースは減っています。
ですが従来のような両建て取引ルールを適用しているFX口座の場合は、過大な必要証拠金の負担のため、ポジションサイズを小さくしなければいけないケースも出てきます。
その結果、資金効率が悪化することになりますので、本当に両建てが必要なのかどうか十分に検討することが求められます。
FX会社は両建てを推奨していない(禁止の場合も)
FX会社によっては「不合理・非合理だ」という理由から、両建てが出来ない(禁止されている)場合があります。
既に解説したように、エントリー時のスプレッドとその後のスワップポイントによって手数料が発生するため、両建てには常時余計なコストが掛かっていますから、損益的には不利です。
また多くの場合、両建てをするよりも、一旦ポジションを決済して改めてエントリーし直したほうが好ましいケースが多いため、そもそも両建ての必要性に疑問が生じます。
ちなみに、商品先物取引法では、両建て取引を勧誘することは禁じられています(これは無用な売買手数料を顧客から得る不法行為とみなされます)。
FX取引が該当する「商品関連市場デリバティブ取引」に関する法律(金融商品取引業等に関する内閣府令)では、両建ての禁止こそ定められていませんが、FX会社には両建てに関する説明義務が課せられています。
参考情報 商品先物取引法(214条8号)
参考情報 商品先物取引法施行規則(103条9号)
参考情報 金融商品取引業等に関する内閣府令(117条35~38号)
FXの両建てトレード手法の例
ここまで説明してきたように、一見するとFXでは意味がないように見える「両建て」ですが、これを角度を変えて捉えることでトレード手法として有効活用する道も見えてきます。
そのヒントは、既に解説した「つなぎ売り」のトレード手法にあります。
例えば、ある通貨ペアのポジションをもっているときに、一方的な強い値動きによる行き過ぎた値動き(オーバーシュート)が発生したとします。
その状況下で、値動きとは反対側のポジションを持って両建てにすることで、その後に発生するであろう調整の動きによる値幅を利益に換える可能性が生まれます。
具体的には、上昇トレンドで買いポジションをもっていた場合に、ボリンジャーバンドの3σ(3シグマ)ラインを突き抜けるような行き過ぎた値動きになったとき、そこで売りポジションでエントリーして両建てにします。
さて、その後に調整の動きになって2σラインまで反転してきたところで、売りポジションだけ決済して両建てを外します。
こうすることによって調整の値動きを利益に換えることが出来るわけですが、当然そのまま3σラインをバンドウォークしていって更に上昇を続ける可能性もあります。
ですから両建て用の売りポジションの損切りについては、事前にしっかりとルール化しておく必要があります。
このようなタイプの両建ては、いうなれば「異なる時間軸でのトレードを同じ通貨ペアで行っている」ということになります。
つまり、元のトレンドフォロー トレードの中で「短い時間軸での逆張りトレード」を同時に行っている──というわけです。
このように「両建てによって何をしようとしているのか」をしっかりと自覚・把握した上でならば、両建てにもトレード手法としてのメリットがあると言えるでしょう。
FXの『両建て』の意味、デメリット、注意点など~まとめ
両建てとは、ひとつの通貨ペアで「買い」と「売り」両方のポジションを同時に持つことです。
両建をおこなうと、エントリー時のスプレッドとその後のスワップポイントによって手数料が発生します。
そのため両建て戦略には常時余計なコストが掛かることから、損益的には不利なトレード戦略といえます。
また多くの場合、両建てをするよりも、一旦ポジションを決済して改めてエントリーし直したほうが好ましいケースが多いため、そもそも両建ての必要性に疑問が生じます(両建ては必要ないという意見も多く見られます)。
しかし両建てを「異なる時間軸で同時に複数のトレードをすること」と捉えることで、新たなトレードチャンスを見出すことも可能です。
いずれにしても、事前にしっかりとリスク管理ルールを定めて検証をおこなうことが大切になってきます。
以上、FXの『両建て』とは?やり方と注意点、デメリットや非推奨の理由──についてお伝えしました。