スリッページとは、FXの売買注文が成立するとき、為替レートの変動によって生じる現象で、注文したレートと実際に約定されたレートとの 差(ズレ) のことです。
スリッページが発生することを、一般に「滑る・滑った」などと表現します。
この記事では、スリッページが発生する仕組みや対策方法、許容スリッページのおすすめ設定値、スリッページが起き難いFX口座などについて詳しく解説していきます。
スリッページとは?
FX取引においては、注文したレートと実際に取引が成立したレートが異なる場合があります。
この差(ズレ)をスリッページと呼びます。
下の図は、為替レートが変動する中でスリッページが発生する様子を表した模式図です。
例えば、あなたがドル円を「100.30円」で買いの成行注文を出したとします。
しかし、為替市場では急激な上昇が起きていて売り手が少ない状況だったため、約定レート(実際の取引が成立した価格)が「100.31円」になってしまいました。
──この場合「1.0pipsのスリッページ」が発生したことになります。
スリッページは決済を成行注文でおこなう場合にも起こり、図では決済でも1.0pipsのスリッページが発生したことを表しています。
スリッページが発生する原因と対策
スリッページが発生する原因としては、急激なレートの変動にともなう需給バランスの崩れや、FX会社での注文処理の遅延(タイムラグ)などが挙げられます。
「スリッページが発生する原因」
- 急激なレートの変動にともなう、市場の需給バランスの崩れ。
- FX会社での注文処理の遅延(タイムラグ)。
スリッページは特に、高速で大量の注文がやり取りされる「ブレイクアウトによるトレンド発生時」や、重要な経済指標発表後など、相場が急激に変動する場合に生じやすい傾向があります。
基本的にはスリッページを回避することはできませんが、適切な注文設定(許容スリッページ設定)を行うことや、スリッページが発生しやすい時間帯を把握して対策を取ることで、損失を最小限に抑えることができます。
「スリッページによる損失を最小限に抑える方法」
- 適切な注文設定(許容スリッページ設定)を行う。
- スリッページの発生しやすい(需給バランスが崩れやすい)状況や時間帯では、注意深く取引する。
※具体的な許容スリッページの設定値については、この記事の後半で詳しく解説します。
FX取引でスリッページが発生する仕組み
スリッページの基本を理解したところで、ここからは「スリッページが発生する仕組み」について掘り下げて見ていくことにします。
スリッページの仕組みを理解することで、より効果的な対策を取れるようになるでしょう。
スリッページの原因「1. 需給バランスの崩れ」
スリッページは一般的に、需給バランスが崩れた状況下で発生することが多いです。
需給バランスが崩れた状態とは、買い手もしくは売り手、どちらか一方だけが多かったり少なかったりする状態のことです。
つまり、いくら希望のレートで買いたくても、肝心の売り手がいなければ、売ってくれる相手が現れるレートまで買い値を上げざるを得なくなります。
このように、需給バランスが崩れた状況では売買注文が成立し難くなっているため、思った通りのレートでポジションを持つことが困難になり、結果的に不利なレートで売買せざるを得なくなるのです(=スリッページの発生)。
特に、モメンタムが高い相場状況においては需給バランスが崩れやすくなるため、スリッページが発生しやすい傾向があります。
モメンタムが高まって需給バランスが崩れやすくなる相場状況の例としては、次のようなものが挙げられます。
- 重要な経済指標の発表時。
- 突発的なイベントが起こった場合(政変や事件などのニュースの発生)。
- 長いレンジをブレイクアウトした状況。
スリッページの原因「2. 注文処理のタイムラグ」
FX取引の注文方式のひとつである成行注文は、FX会社が注文を処理したタイミングの為替レートで執行される仕組みになっています。
下の図は、FX取引で成行注文が処理される流れを表したもので、縦軸は為替レート、横軸は時間経過を表しています。
まず、FXトレーダーの取引ツールから売買注文が送信されると、インターネット回線の状況に応じてFX会社の取引サーバーに注文情報が到着します。
回線状況が悪いと、この時点で一定のタイムラグ(時間差・時間の遅れ)が発生します。
FX会社に注文情報が到着すると様々な処理が行われ、ここでもライムラグが発生します。
こうしたタイムラグがあるため、激しい値動きが発生している中で成行注文でエントリーすると、注文処理の間にレートが変動してしまい、「思わぬ不利なレート」で約定することになります。
このレートの差(ズレ)が「スリッページ」として現れます。
注文処理のタイムラグが発生する理由
スリッページの原因となっているこの「タイムラグ」ですが、FX会社の注文処理でタイムラグが発生する理由は以下の通りです。
- FX会社が、トレーダーの注文に応じたポジションをインターバンク市場(銀行間取引ネットワーク)から調達して、カバー取引を実施するため。
- FX会社が、顧客間のポジションを調整するなどの処理をおこなうため。
- FX会社が意図的に時間差を作り出し、FX会社側に有利になるよう調整するため。
FX会社は自社のリスクヘッジとして、我々顧客のポジションを相殺できるサイズのポジションをインターバンク市場から調達しており、これを「カバー取引」といいます。
相場状況によっては、インターバンク市場も流動性が低下したりスプレッドが拡大したりする結果、FX会社の取引手続きに時間が掛ってしまいタイムラグが生じる可能性があります。
これがタイムラグが発生する理由「1」です。
理由「2」と「3」はどちらもFX会社のサーバー内部で発生するタイムラグです。
顧客同士の取引タイミングやポジションサイズに応じて随時、約定のすり合わせを行うことで、FX会社はカバー取引のコストと労力を低減させています(これは「相対取引」という合法的な仕組みにもとづいた処置です)。
この処理作業がタイムラグの要因となっています。
以上のような理由によって、注文から約定までにタイムラグが発生し、それがスリッページとなって現れるのです。
需給バランスの崩れ+タイムラグ=スリッページ
「需給バランスの崩れ」と「注文処理のタイムラグ」のふたつの原因によって、レートが激しく変動している相場状況で、チャート上のレートと約定されたレートとが異なる事態──すなわち「スリッページ」が生じるわけです。
また逆指値注文の場合も、事前に指定したレートに達したら、そのタイミングで成行注文が執行される仕組みになっています。
具体的には、ある高値を少し超えたところに逆指値注文を置いた場合、高値をブレイクアウトして注文したレートに到達すると、そこで成行注文が執行されます。
この状況では、売り方の損切りと新規の買い注文が重なるため、レートが急激に上昇していく傾向があります。
そんな中で成行注文が執行される結果、注文していたレートよりも高い「不利なレート」で約定する確率がとても高くなります。
その結果が、大きなスリッページという形で現れるわけです。
スリッページの対策方法
こうした「大きなスリッページ」によって不利なポジションを持ってしまわないためには、どうすればいいのでしょうか?
そのための対策方法は、許容できるスリッページの量(値幅)をあらかじめ決めておくというものです。
FX会社が提供する取引ツールには通常、「許容スリッページ設定」というものが設けられており、この設定をおこなうことで「想定外の大きなスリッページ」から証拠金を守ることが出来ます。
許容スリッページ設定のメリット
あらかじめ取引ツールの「許容スリッページ設定」を行うことで、設定した値幅以上に離れたレートでは約定しないようにすることが可能です。
例えば、許容スリッページを「3.0pips」と設定した場合、FX会社側で注文が処理された際のレートが、発注したレートよりも3.0pips以上離れてしまっていた場合、その注文は不成立となります。
このように許容スリッページを設定しておくことで、注文したレートとかけ離れた不利なレートでポジションを持ってしまうことを避けることが出来ます。
多くのFX会社では「ストリーミング注文」という名前で呼ばれる注文方式を選択することで、この「許容スリッページ設定」を利用することが可能になっています(他にも「ファスト注文」「スピード注文」などの呼び方があります)。
許容スリッページ設定のデメリット
上記のようなメリットの半面、FX会社側での注文処理時のレートが許容スリッページ以上離れてしまった場合は「注文不成立(約定拒否)」となってしまう点に注意が必要です。
この場合には成行注文は約定されず、ポジションを持てない、もしくは決済が出来ないという結果になります。
ですので、許容スリッページの設定値は慎重に決める必要があります。
FXで利益を得るためには、エントリーチャンスで確実にポジションを持つこと、そして然るべきタイミングで決済することが必要です。
しかし許容スリッページの設定値を小さくすればするほど、約定拒否によってポジションが持てなくなったり決済できなかったりするため、機会損失が頻繁に発生するようになります。
これはスリッページを少しでも抑えたい場合には、避けては通れない問題となります。
いわゆる「約定力の高いFX口座」であれば、こうしたスリッページの問題が少なくて済む可能性があるため、約定力の高いFX口座を選ぶためにしっかりとFX会社の検討をすることをおすすめします。
FX口座の「約定力」とは?
約定力とは、執行された注文が約定される速度や、約定される割合、スリッページが発生する度合いなどを示したもののことで、FX会社の良し悪しを計る指標のひとつです。
基本的に相対取引となる個人のFX取引においては、約定力の優劣がトレード成績にじわじわと、しかし着実に影響を及ぼしてきます。
トレーダーが意図した為替レートで約定できるかどうかは、FX取引を行う上で極めて重要な要素ですから、自分が利用するFX会社の約定力には常に注意を払う必要があります。
成行注文を出してから約定するまでに長い時間が掛かる場合(数秒以上)や、約定拒否がたびたび起きる場合は、ほかのFX会社を試して比較検討をおこない、約定力の高いFX会社を利用することをおすすめします。
多くのFX会社では、注文が約定した割合や、約定までの平均速度、スリッページの有無や程度について詳細を公表していますので、それらの情報を参考にするのも有効です。
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FXの許容スリッページ設定値を決めるための「判断要素」
ここからは「許容スリッページのおすすめ設定値」について、順を追って解説していきます。
許容スリッページの数値は、トレードスタイルや通貨ペアごとの違いなど、様々な要素が影響し合うなかで設定する必要があります。
そのため、誰にでも当てはまるような理想的な推奨値があるわけではありません。
とはいえ、ある程度の基準や妥当な数値はありますので、以下の解説を踏まえながら、あなたのトレード手法にあった数値を設定してください。
①「利確目標までの値幅」に対するスリッページの割合はどの程度か?
まず最初に、あなたの普段のトレードにおける「スリッページの影響度」を確認します。
あなたのトレード手法の「利益確定の値幅の平均値」を出してみましょう。
この「エントリーポイントから利確目標までの平均値幅」が狭ければ狭いほど、スリッページの影響度は大きくなります。
スキャルピング手法における「スリッページの影響度の大きさ」について
ここでは例として、エントリーポイントから利益目標ラインまでの平均的な値幅が「5pip以下」というようなスキャルピング手法のケースで考えてみましょう。
スキャルピング手法では、突発的な値動きなどで「数pips」のスリッページが発生するだけでも、トータル損益に大きな影響が出てしまいます。
仮に分かりやすく、利確目標が「+5.0pips」、損切りが「-5.0pips」だった場合を見てみましょう。
この場合のリスクリワード比は「1:1」で、勝率50%を上回るトレードを繰り返せば、トータル損益をプラスにできます。
もしエントリー時に「2.0pips」のスリッページが起きると、利確は「+3.0pips」に、損切りは「-7.0pips」になります。
この場合は、リスクリワード比は「2.33:1」となり、勝率70%でトレードを繰り返しても、トントンにしかなりません。
実際にはここまで極端なケースにはなりませんが、利確目標までの値幅に占めるスリッページの割合が大きくなるほど、トータル損益をプラスにすることが困難になってしまうことが分かると思います。
スキャルピング手法によっては、わずか数pipsの利益確定をするものもありますので、許容スリッページ設定は慎重に検討する必要があります。
スイングトレード手法における「スリッページの影響度の小ささ」について
反対に、利確目標ラインまでの値幅が「+100pips」、損切りが「-50pips」であるようなスイングトレード手法の場合を見てみましょう。
計算するまでも無く「2.0pips」のスリッページは、リスクリワード比率的には誤差の範囲ですので、その影響度は小さくなります。
むしろ、エントリー注文が約定拒否されることによる機会損失を心配する必要があります。
スキャルピングとスイングトレード、どちらのケースもスリッページの絶対値は同じですが、影響を受けた際のトレード成績は大きく異なってきます。
損切り決済でもスリッページが発生することを理解しておく
スリッページというと多くのFXトレーダーは、新たにポジションを持つときに発生するスリッページばかりに注目しがちです。
しかしスリッページはエントリー時だけではなく、決済時にも発生する可能性があります。
改めて、スリッページが発生する様子を表した図をご覧ください。
エントリー、利益確定、損切り、そのいずれかを問わず、成行注文(逆指値注文を含む)が約定される際には、常にスリッページの問題がつきまといます。
これは特にスキャルピング手法を使ってトレードをする際に、大きな影響となって表れてきます。
先程の「リスクリワード比率」の件は、決済時のスリッページも含めて考えることで、さらに重要性を増してきます。
スキャルピングで利益を出すことが難しいと言われる所以のひとつは、こうしたスリッページが占める割合(そしてスプレッドの占める割合)の大きさにあります。
「勝っても勝っても、何回勝っても利益が残らない」というのは、スキャルピング初心者なら誰もが経験する苦しみでしょう。
これを解決するには、高いリスクリワード比率か高い勝率のいずれか、もしくはその両方が必要になってきますが、その件はここでは深入りせずにおきます。
②エントリーの特徴ごとのスリッページの違いについて理解する
続いて考慮するポイントは、あなたのトレード手法の「エントリーの特徴」についてです。
注目する要素は以下の点です。
- モメンタムが発生する状況でエントリーするか否か。
- モメンタムの方向にエントリーするか否か。
モメンタムとは「値動きの勢いの強さ」を意味する言葉で、この場合は高値や安値を更新したりレンジをブレイクアウトするなどして、短期的にレートが勢いよく動き出す状況を指しています。
ちなみに、ボラティリティが高くなって乱高下している状況も、モメンタムが発生している状態(強いモメンタムが短時間で方向を変えている状態)といえます。
あなたのトレード手法のエントリーは、何らかのブレイクアウトの勢いに乗ってポジションを持つものでしょうか?
それとも、ある一定の価格帯にレートがある状態で、静かにポジションを持つものでしょうか?
はたまた、勢いに逆らうように逆張りエントリーをするものでしょうか?
モメンタムが発生する状況で同方向へ成行エントリーするケースの場合
レジスタンスラインやサポートラインを抜けるなど、何らかの重要な高値や安値をブレイクアウトするタイミングでエントリーする手法においては、スリッページの影響はどうしても大きなものとなります。
これは「モメンタムが発生し、かつモメンタムの方向に成行エントリーするタイプの手法」における、避けられない特徴です。
例えば、上昇のモメンタムが発生する──つまり、レートが上昇していくということは、逆サイドである「売り勢力」が弱くなっているということです。
それは即ち「買いポジションを持ちたくても、ポジションを売ってくれる相手が少ない」ということであり、需要と供給のバランスが崩れているため、より高い「不利なレート」で買わざるを得なくなるということです。
これがスリッページの形となって現れるわけです。
この状況下では、大きなスリッページを嫌って許容スリッページ設定値を小さくすると、約定拒否が多くなって機会損失が増えることになります。
かといって許容設定値を大きくすると、リスクリワード比率的にトータル損益をプラスにすることが困難になってきます。
このように、モメンタムが発生する状況で、かつ同方向へエントリーする手法においては、機会損失とトータル損益のバランスが大きな課題となります。
モメンタムが小さい(弱い)状況でエントリーするケースの場合
モメンタムが小さい(弱い)状況でエントリーする手法の場合、スリッページの問題は比較的小さくなります。
これは、ある価格帯でレートが停滞している状態でエントリーするケースや、ラインで反転・反発することを想定したエントリー(ラインを背にしたエントリー)などが該当します。
モメンタムが発生しておらず乱高下も無ければ、成行注文はほぼ注文レート通りに約定されるでしょう。
さらに、ラインを背にするように待ち構えてエントリーするタイプの手法の場合は、指値注文を使うことによって、スリッページの問題は事実上無くなります。
例えば、ブレイクアウトのタイミングではエントリーせず、その後の押しや戻りを指値注文によって待ち構えるトレード手法を選択することで、同じブレイクアウト手法であってもスリッページ問題からは解放されます。
もちろん、成行注文が乱高下に巻き込まれてしまうとスリッページは避けられませんが、モメンタムが無い状況でエントリーする手法においては、基本的に許容スリッページ設定を小さくすることが可能です。
モメンタムと逆方向へ成行エントリーするケースの場合
ここまでの解説を理解できているならば、モメンタムと逆方向へ成行エントリーする手法の場合は、スリッページの問題は無さそうに思うかもしれません。
しかし実際には、強いモメンタムが発生している状況では、モメンタムと逆方向へのエントリーでも大きなスリッページが発生する可能性があるのです。
これには二つの理由が考えられます。
- 強いモメンタムの状況下では、レートは一方向へ動き続けているのではなく、細かく乱高下している可能性があるため。
- 一方的な強いモメンタムが発生しているということは、売り手と買い手の需給バランスが崩れている可能性があるため、結果として「一時的なスプレッドの拡大」が起きるため。
まず理由「1」ですが、ブレイク直後などの値動きの激しい状況においては、瞬間的に強く上昇した直後に強く下げるというような「激しい振幅」を見せる傾向があります。
そのような値動きのなかで逆張りエントリーをすると、タイミングによっては瞬間的に激しく押し戻す流れにつかまってしまい、予期せぬ大きなスリッページとなってしまう訳です。
次に理由「2」ですが、何らかの理由で需給バランスが崩れると、基本的に配信レートのスプレッドは一時的に拡大します。
FX口座によって傾向は異なりますが、スプレッドが原則固定となっている場合でも、瞬間的なスプレッドの拡大は相場状況に応じて発生しています(これが “原則” 固定と呼ばれる所以です)。
こうしたスプレッドの拡大がモメンタム発生時に起きると、逆張りエントリーであっても関係なく不利なレートで約定することとなります。
このように、モメンタムと逆方向へ成行エントリーする手法の場合でも、許容スリッページの設定においては、モメンタム方向へのエントリーと同様、機会損失とトータル損益のバランスが大きな課題となります。
③トレードする通貨ペアの値動きの特徴を把握する
最後に、あなたが普段トレードしている通貨ペアの値動きについて、改めて確認しておきましょう。
確認ポイントは以下の通りです。
- 実際にトレードする時間帯の「スプレッド」。
- 実際にトレードする時間帯の「ボラティリティの大きさ」。
トレードスタイルとトレード手法が定まっているということは、上記2つのポイントにおいて無理のない通貨ペアを選択できているものと思われます。
ですが例えば、スキャルピング手法を使っているのに、スプレッドが大きな通貨ペアでトレードしている場合は、スリッページの問題以前にそもそも不利なトレードをしてしまっている可能性がありますので、通貨ペアの再検討が必要かもしれません。
また、スイングトレードにおいて、常時ボラティリティが小さい通貨ペアでトレードしている場合は、利確目標が通貨ペアの値動きに対して大き過ぎる可能性があります。
この場合もスリッページの問題以前の話になってきますので、通貨ペア選択の再検討をおすすめします。
FXの許容スリッページの「具体的な設定値」
では、ここまでの内容を踏まえながら、具体的な許容スリッページの設定値について解説していきます。
許容スリッページ設定を決めるための要素として、次のような項目を取り上げてきました。
- 「利確目標までの値幅」に対するスリッページの割合。
- エントリーの特徴(モメンタム発生の有無とエントリー方向との関係)。
- トレードする通貨ペアの値動きの特徴。
これらの要素を総合的に判断しながら、いくつかのモデルケースを使って許容スリッページの設定値を考えていきます。
A. モメンタムが発生する状況でエントリーするスキャルピング手法の場合
モメンタムが発生する状況でエントリーする手法においては、値動きの性質上、スリッページは不可避です。
そのため機会損失とトータル損益のバランスが、許容スリッページ設定値を決める上での大きな課題となります。
また、発生したモメンタムと逆方向へエントリーする「逆張りエントリー手法」の場合でも、スリッページが発生する可能性があるため、同様の対策が必要になります。
スキャルピングは、利益確定におけるスリッページの影響度が高いため、できるだけ許容スリッページの設定値を小さくしておきたいところです。
トレードする通貨ペアは、必然的にスプレッドの小さいドルストレート系(ドル円、ユーロドル、ユーロ円など)になります(FX口座によってはポンドドルも可能)。
このような前提で考えられる許容スリッページ設定値は「0.2~0.5pips」です。
この数値を基準に、トレード内容に応じて調整していきます。
A-1. エントリー回数が多いトレード手法の場合
手法のエントリー回数が多い場合は、許容スリッページ設定値を「0~0.1pips」にする選択肢があります。
この場合、約定拒否によってチャンスを逃すケースが散発的に発生するようになりますので、約定拒否後の再エントリールールを定めておくことが大切になります。
例えば、約定拒否の後、本来のエントリーポイントまで再度レートが戻って来たら、改めて成行注文を出す──という方法があります(戻って来なかったら諦める)。
約定拒否が発生しても、そのまま発注ボタンを連打するような乱暴な対策は、決して取らないようにしてください。
あまりにも約定拒否が多い場合は、0.1pipsずつ徐々に許容スリッページ設定値を上げていきましょう。
A-2. スナイパー的に少ないチャンスを狙うトレード手法の場合
数少ないエントリーチャンスをピンポイントで狙うタイプの手法の場合は、許容スリッページ設定値を「0.5pips前後」の範囲で可能な限り大きくしておくことが妥当だと考えられます。
なぜなら、スナイパー的に少ないチャンスを狙う手法では、機会損失がトレード成績だけでなく、メンタル的にも大きな影響を及ぼしかねないためです。
ある程度のリスクリワード比率の悪化は受け入れつつ、確実にポジションを持つことを目指すことが好ましいでしょう。
その上で、一定期間のトレード成績の統計を取り、徐々に許容スリッページ設定値を小さくしていきながら、機会損失によるトータル損益への影響が出ない設定値を見極めていきます。
ちなみにこの手法の場合も、再エントリールールを定めておくことをおすすめします。
B. モメンタムが無い(小さい)状況でエントリーする手法の場合
スイングトレード、デイトレード、スキャルピングいずれの手法でも、モメンタムが無い(小さい)状況でエントリーする手法の場合は、概ねスリッページの影響は低いものとなります。
ですので、許容スリッページ設定値を「0pips」にすることが現実的に可能になってきます。
とはいえ、0pipsという設定値は、発注時と注文処理時の為替レートがわずかでも異なれば約定拒否になるということですから、使用するFX口座によっては想像以上に “頻繁に” 約定拒否が発生する可能性があります。
例えば、一見すると横ばいの穏やかな相場状況だったとしても、レート配信の頻度が多くなっている(相場が活況になっている)時間帯だと、意外と約定拒否が起こりやすくなりますので注意が必要です。
その意味では、確実にポジションを持つための「保険」の意味を持たせて、許容スリッページ設定値を「0.1~0.3pips」にしておくことは有益な選択だといえます。
C. モメンタムが発生する状況でエントリーするスイングトレード&デイトレード手法の場合
スイングトレードやデイトレードでは、スキャルピングほどシビアに許容スリッページのことを考える必要はありません。
スリッページの影響度は利益確定の値幅に応じて相対的に小さくなるため、トレードスタイルによっては無視できるレベルにもなります。
しかしポイントを押さえておかないと、思わぬ約定拒否に驚くことになるかもしれませんので注意しましょう。
設定値のスタートラインになるのは、スキャルピングと同様に「0.2~0.5pips」です。
ただしブレイクアウトでエントリーする手法の場合、より大きな設定値にしなければならない可能性があります。
その理由は、以下の通りです。
- 4時間足や日足レベルの重要な高安値をブレイクするような状況では、短期的に大量の注文が処理される傾向がある(大口の損切り&新規注文)。
- その結果、短時間で一方的な強い値動きや乱高下が発生し、大きなスリッページが発生する温床となる。
デイトレードやスイングトレードで狙うブレイクアウトは、スキャルピング手法で狙うブレイクアウトよりも、レンジや各種停滞パターンの期間やサイズがはるかに大きい傾向があります。
それだけ売り買いの攻防が長期間にわたって拮抗している状況なので、いざそれがブレイクアウトとなった場合には、大量の損切りと新規注文が飛び交う、乱高下の様相を呈することになります。
このような状況に乗じてエントリーするとなると、大きなスリッページが発生する可能性が生じます(スプレッドの拡大も起こり得ます)。
そのため、手法のエントリータイミングによっては、スキャルピング手法よりも大きな許容スリッページ設定値が必要になるかもしれません。
設定値のスタートラインは「0.2~0.5pips」ですが、実際のエントリーで約定拒否が頻発するようであれば「1.0~3.0pips」の許容スリッページ値が必要になる可能性もあります。
ただ、このように大きな許容スリッページ設定値が必要になっている場合、さすがにトータル損益への影響も無視できないレベルだと思われますので、エントリータイミングの再検討も必要でしょう。
スリッページの少ないおすすめFX口座の紹介
FX口座を選ぶ際には、宣伝されている「非常に狭いスプレッド」だけに注目しないように気を付けましょう。
実際にリアルトレードをしてみると、思わぬタイミングで大きなスリッページが発生し、その結果多くのスプレッドを支払うことになるケースは多いものです。
すでに説明してきたように、エントリータイミングの特徴によってもスリッページのサイズは異なってきますし、時間帯による変化もあります。
こうした要因を踏まえた上で、試す価値のあるFX口座を紹介します。
約定力で定評のある「マネーパートナーズFX」
おすすめは「100%の約定力」を掲げるFX会社、マネーパートナーズです。
実際に矢野経済研究所による調査によって、10年連続して約定力第1位を記録しています。
しかも調査対象のFX会社のなかで唯一「スリッページ発生数0件」と「約定拒否発生数0件」という結果も記録しています。
参考情報 プレスリリース「10年連続 約定力第1位を達成!」|PR TIMES
その上、スプレッドも狭いため、メイン口座として使う価値のあるFX会社といえます。
その他、詳しい情報および口座開設の手続きは、マネーパートナーズ公式サイトからどうぞ。
口座開設 マネーパートナーズFX|公式サイト
秒スキャルピングは禁止されているので注意
高い約定力と狭いスプレッドが魅力のマネーパートナーズのFX口座ですが、取引規約において「短時間での注文を繰り返す行為」は禁止とされています。
つまり秒単位でのエントリーと決済を繰り返すような、いわゆる「秒スキャルピング」は出来ないということですので注意して下さい。
詳しくは、マネーパートナーズ公式サイトの契約約款をご覧ください。
参考情報 契約約款「第29条 取引の制限、停止」|マネーパートナーズ
MT4を使うなら「OANDA証券」
MT4を使う場合におすすめなのは、私も使用している「OANDA証券」のMT4口座です。
ドル円で0.2Pipsといった狭いスプレッドに慣れていると、OANDA証券MT4口座の0.4Pips~というスプレッド数値はやや広く感じられるかもしれません。
しかし大切なのは現実に発生する「実スリッページ値」であり、OANDA証券は以下のような点からおすすめです。
- OANDA証券では過去の実スプレッド値を始め、積極的な情報開示を行っている。
- 実際に発生するスリッページを低く抑えている。
- 公表スプレッド値での高い約定力を提供している。
- 安定的にエントリーと決済が行える約定力がある。
その他、詳しい情報と口座開設の手続きは、OANDA証券の公式サイトからどうぞ。
口座開設 OANDA証券|公式サイト
損切りの逆指値注文におけるスリッページについて
さて、この記事では、許容スリッページの設定値よりも大きなスリッページが発生した場合は、その成行注文は約定されない(約定拒否になる)という内容をお伝えしてきました。
ここでひとつ疑問が出てきます──。
逆指値注文は、指定のレートに到達したら成行注文が執行される仕組みになっています。
では、損切りの逆指値注文が発注されたときに「許容スリッページ幅」を上回ったら、その注文は約定拒否されてしまうのでしょうか?
これは一般的なFX会社側の対応として、損切りとしても用いられる逆指値注文には許容スリッページ設定が適用されないルール(適用は単独の成行注文のみ)になっているケースが多く、設定が要因の約定拒否は実質的には起きないようになっています(GMOクリック証券、外為オンライン、FXブロードネット、カブドットコムFXなど)。
※許容スリップは、成行注文(クイックトレード)を対象とした機能です。逆指値注文やトラッキングトレード、ロスカット、強制決済では許容スリップによる約定の制限はありません。
※許容スリップの設定対象は、成行注文(クイックトレード)のみとなります。
「逆指値注文」「トリガー注文」には許容スリップの設定はありません。
これは投資家保護の観点から、損切りの逆指値注文はスリッページが大きくなろうとも決済を優先して約定させるべきものだ、という理由からです。
ただし、相場状況がパニックに陥っている場合など、為替レートが急激に一方向へ動いている状況では、いつまでも注文が約定せず、想定外に大きな損失となる可能性があるので注意が必要です。
ちなみに、任意のタイミングで成行注文を使って決済しようとした場合は、エントリー時と同様に許容スリッページ幅以上の滑りが発生した際には約定拒否になります。
FX会社による「決済の逆指値注文のノースリッページ」を保証するサービス
FX会社の中には「決済の逆指値注文でスリッページを発生させない特別制度」を設けているところもあります。
例えばIG証券のFX口座では、プレミアム料金を支払うことで、損切りやトレーリングストップでの逆指値注文の際にスリッページが起きないようにすることが可能です。
この「ノースリッページ注文」を利用することで、決済の成行注文が指定レート通りに必ず約定されるようになりますので、リスクヘッジとして価値のあるものだと言えます。
参考情報 ノースリッページ注文|IG証券
他のFX会社でも、「ゼロスリッページ保障」といった名称で同様のサービスを提供しているところもあります。
ポジティブ・スリッページというものもある
ここまでは、FXトレーダー側にとって不利になるスリッページ、つまり「ネガティブ・スリッページ」について説明してきました。
しかし本来であれば、激しい値動き(乱高下)のなかでエントリーや決済を成行注文で行う場合、売買注文の発注時よりも有利な為替レートで約定することもあり得るはずです。
また、モメンタム方向に逆らう「逆張りエントリー手法」の場合、レート本来のモメンタム(勢い)を考慮すれば、注文時よりも有利なレートで約定する可能性があると考えられます。
この「FXトレーダーにとって有利なスリッページ」のことを「ポジティブ・スリッページ」と呼びます。
FX会社のなかには、約定力の高さとフェア(公平)な為替取引をアピールするところがあり、相場状況によってはポジティブ・スリッページも起きることを明言していたりします。
自分に合ったFX口座を探す際には、FX会社のスリッページへの対応状況について注目してみると、FX会社ごとの特徴や個性が見えてくるでしょう。
FXのスリッページについて~まとめ
スリッページとは、FXの売買注文が成立するとき、為替レートの変動(急変など)によって生じる現象で、注文したレートと実際に約定されたレートとの差(ズレ)のことです。
為替レートが激しく変動している相場状況だと、FXトレーダー側のチャートで見ていた為替レートとFX会社が注文を成立させたレートとが異なるケースが生じます。
そのため、激しい値動きが発生している中で成行注文でエントリーすると、思わぬ不利なレートで約定することになり、これがスリッページとして認識されます。
対策としては、事前に許容スリッページ設定を行っておき、その結果発生する「約定拒否」の頻度と状況を踏まえながら、最適な許容スリッページに調整していくことです。
以上、『スリッページ』とは?意味と原因&対策。おすすめ許容設定値──ついてお伝えしました。