良くないFXの勝ち方と向き合う。勝利の興奮が招くトレーダー成長の罠

FXに役立つ話

FXトレードの世界にいると、多くの人が「負けトレード」の苦しさについて語ります。なぜ負けたのか、どうすれば負けないのか、どうすれば損失を受け入れられるのか。それはもちろん、トレーダーにとって避けては通れない重要なテーマです。

ですが、長年この世界で生き残ってきた私から見ると、実は「勝ちトレード」という名の落とし穴もまた、多くのトレーダーを密かに退場へと追いやる危険な罠だと強く感じています。

今回の記事では、この「勝ちトレード」という一見ポジティブな出来事が、いかにして私たちのメンタルと成長を阻害するのか、そしてその罠を回避するための具体的で実践的な方法について、私の経験談を交えながらお話ししていきたいと思います。

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目の前の勝ちトレードが証明するものとは?

あなたは、大きな利益を出したトレードの直後、どんな気持ちになりますか?

きっと、高揚感や達成感、そして何よりも「自分は正しいことをした」「自分の実力で勝った」という、満ち足りた自己肯定感に包まれるのではないでしょうか。

しかし、冷静に考えてみてください。その一回の勝利は、本当にあなたの「正しさ」や「強さ」を証明するものなのでしょうか?

私は、決してそうではないと考えています。

トレードという行為は、一回一回の結果で評価されるものではありません。それは例えるなら、宝くじのようなものです。宝くじに当たったからといって、その人の「宝くじを当てるスキル」が証明されたことにはなりませんよね。

本当に大切なのは、「まとまった数のトレードを統計的に捉えたときにトータルでどうなっているか」という点です。安定して利益を出せるトレード手法と、それを淡々と実行できるメンタルこそが、トレーダーの実力を示す唯一の証です。

にもかかわらず、私たちは目の前の一回の勝利に一喜一憂し、本来見るべき「線」としてのトレード結果を見失いがちです。この「点」の勝利がもたらす一過性の快感こそが、私たちの冷静な判断力を奪い、次のトレードで無謀な行動へと駆り立てる最初の罠なのです。

「幸運」という名の毒がもたらす『誤った学習』のメカニズム

さて、その「勝ちトレード」が、もしあなたのルールに基づいたものではなく、単なる「幸運」によるものだったらどうでしょうか?

たとえば、普段は決してエントリーしないような状況で、なんとなく勘でポジションを持ったところ、突然飛び出した大ニュースが追い風となって、思いがけない大きな利益を得てしまった──。

こんな経験、あなたにもありませんか?

このとき、頭では「ラッキーだった」と冷静に考えられても、私たちの本能はそうはいきません。大きな利益という「快感」を経験した脳は、そのトレードの状況や行動を「正しいこと」として強く記憶し、ドーパミンという快楽物質を激しく分泌させます。

つまり、私たちの脳は、「根拠のないエントリーで、一発逆転を狙うこと」という、本来なら危険でしかない行動を「誤った学習」としてインプットしてしまうのです。

これは、ベテラントレーダーであればあるほど、「ああ、良くない勝ち方をしてしまった」と捉えるべき事象です。さらに強めに言えば、このようなトレードは一度たりともしてはならないものとして、恥ずべきものですらあります。

この「良くない勝ち方」が何度もFXで繰り返されると、無意識のうちにリスクの高いトレードを好み、ルールを無視するようになり、やがては大きな損失を抱えてトレードの世界から退場することにつながります。

これは、ある種のアディクション(中毒状態)であり、無意識・無自覚だからこそ、余計に厄介なものとしてトレーダーに襲い掛かります。

勝ちトレード後の「静寂の儀式」──冷静さを取り戻すための戦略

では、この勝ちトレード後の「誤った学習」の罠を回避するためにはどうすれば良いのでしょうか?

私が長年の経験からたどり着いた結論、それは「勝ちトレード後に、必ず行う儀式を習慣化する」ことです。

これは単なる精神論ではありません。本能レベルで発生した「誤った学習」の回路を断ち切り、冷静な判断力を取り戻すための、極めて戦略的で現実的なトレーニングなのです。

その儀式は、次の3つの要素で構成されます。

1. 物理的な状況を変える「リセット」

まず、何よりも大切なのは、「強制的に席を離れる」ことです。

勝ちトレードで興奮状態にある脳は、モニターに表示されているチャートと、そこで得られた快感を強く結びつけています。この結びつきを断ち切るために、物理的な環境から一旦離れることが非常に効果的です。

モニターの電源を一旦オフにする。椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。こうした五感に訴えかける「リセット」のアクションは、「トレードは一旦終わりだ」という明確なシグナルを脳に送り、興奮状態を強制的にシャットダウンさせます。

このように「物理的にトレード環境と距離を置くこと」というのは、言われてみれば当たり前に聞こえますが、これが根本的なことであり本質的な点なのです。

2. 習慣化を促すための「ご褒美(飴)」

しかし、この「儀式」を習慣化するのは、簡単なことではありません。興奮しているときに席を離れるのは、脳の仕組み的には難しいのです。

そこで有効なのが、「飴と鞭」の「飴」を用意することです。

物理的なリセットという行動に、脳が喜ぶ「ご褒美」を組み合わせるのです。たとえば、席を立ってキッチンに行き、お気に入りのチョコレートをひとかけら食べる。あるいは、温かいコーヒーを淹れて一息つく。

この「リセット行動」→「ご褒美」という一連のプロセスは、脳に「この行動をすると良いことがある」と学習させ、習慣化を加速させてくれます。

このとき「ご褒美となる飴」は、自分の本当に好きなものを自分自身に与え、例外的に自分をしっかり甘やかすつもりで飴を用意してみて下さい。

この飴が曖昧でいい加減なものだと、「そんな飴よりも、次の勝ちトレードでもっと儲けてやる!」という気持ちに簡単に負けてしまう可能性があります。

「特別な飴」を用意するプラン

生半可な「飴」では、自分の行動を変えられないというあなたに、とっておきのプランがあります。

それは「目玉商品が当たる“くじ引き”」を用意することです。

まず、1等の商品として、あなたが本当に欲しいアイテムやイベントを設定します。例えば、高価な趣味のグッズや、行きたかった高級レストランや旅行など、高価で特別感のあるものがいいでしょう。

そして2等として、先程のチョコレートのような「その場でちょっといい気持ちになれるもの」をある程度の数、用意します。

あとは、大量の外れくじと共に「くじ引きボックス」に入れ、これをリビングやキッチンといった「トレードルームから離れた部屋」に置いておきます。

このプランは、1等のアイテムが「本気で欲しいもの」であればあるほど、効果的にあなたの勝ちトレード後の行動を変化させてくれる可能性が大きくなります。

3. 言葉の力で「再教育」するアファメーション

そして最後に、この儀式に「言葉の力」を添えます。ご褒美を受け取る前、あるいはリセットの行動中に、心の中で静かにアファメーションを唱えるのです。

たとえば、次のような言葉です。

  • 「この勝利は過去のものだ。次のトレードに感情を持ち込むことはない。」
  • 「私はルールに従い、ただ淡々とトレードを実行する。」
  • 「幸運に恵まれたとしても、それは実力ではない。再現性のないトレードは繰り返さない。」

これらのアファメーションは、物理的な行動とご褒美による快感が、あなたが「真のトレード哲学」に基づいた「正しい思考」と結びつくように促してくれます。

これにより、本能レベルで発生した「誤った学習」の回路を、意図的に新しい「正しい学習」の回路へと上書きするのです。

まとめ

FXトレードは、相場を分析する技術的なゲームであると同時に、常に自分自身の内面と向き合う心理的なゲームです。

勝ちトレード後の興奮は、人間として自然な反応です。それを否定する必要はありません。ですが、その感情をそのままにしておくことが、トレーダーとしての成長を妨げ、最終的には退場へとつながる最大の原因となり得ます。

目の前の快感に溺れず、常に冷静な心で次のトレードに備える。

そのための「静寂の儀式」をあなたのトレードルーティンに組み込むことが、長期にわたってFXの世界で生き残り、着実に豊かな果実を得るための重要な一歩となるはずです。

以上、良くないFXの勝ち方と向き合う。勝利の興奮が招くトレーダー成長の罠──についてお伝えしました。